継承と革新の狭間で - 梶原敏弘氏が語る紅茶づくりの真髄
地元集落のお茶作りを生業としていた山間の小さな茶農家が今や世界のコンテストで活躍する有名茶師となった。無農薬で育てられた茶葉を世界に通用するお茶へと導くその技は自然に逆らうことなくありのままを追い求めた結果だった。その技に込められた思いと、次世代へのメッセージを受け取る45分。
茶園のある地域

お茶のカジハラは熊本県葦北郡芦北町に属する山間の小さな集落「告(つげ)」にあります。
芦北町は水俣市と八代市の間に位置する海と山の町で甘夏やデコポンなどの柑橘類の産地として有名です。最盛期には町中に柑橘の香りが漂います。
「告」の集落は芦北町の海岸にある中心部から車で15分ほど細い山道を入った谷間に住居が建つ地域で、往時は林業で賑わっていました。
この地域の山の中には茶ノ木が自生していて、お茶のカジハラもその一角の山茶畑から始まりました。(創業時の山茶畑では今でも年一回、有志で手摘みをして釡炒り茶を作っています。)創業からしばらくは芦北町周辺の人々に釡炒り茶を作って売ることで生計を立てていました。そのような茶園は告だけでも5~6軒ほどあったようですが、現在ではお茶のカジハラさんだけになってしまいました。
今でもお茶のカジハラの茶畑の多くは深い山の中に点在しています。
お茶のカジハラの紅茶づくり=「自分らしいお茶」とは何か

製茶の秘訣「芯水を抜く」

カジハラさんはさまざまな品種の茶ノ木を栽培していますが、どのようにしてそれぞれの品種の特徴をお茶に写し出しているのですか?
梶原特に何もしていません。
全て同じ作り方ということですか?
梶原そうです。製茶でしていることはただ一つ、「芯水を抜く」ことです。
「芯水」とはなんですか?
梶原以前、自分らしいお茶作りを求めて台湾に勉強に行ったとき、そこで学んだ茶師から「製茶とはどのように茶葉から水分を取り除くか」と教わりました。その時に表面だけ乾いたように感じる状態ではなく、葉の一番深い内側から満遍なく水分を抜くということです。それが「芯水を抜く」ということです。それができていないと「茶葉の力」は引き出せない。逆に言えば製茶はその一点に集中することで、どんなお茶の種類でも品種の個性が出てくるということです。基本は変わらない。「自分らしいお茶」と言えばその一点だけは外さないことでしょうか。
茶園主としての思い
「もっと多くの人にいろいろなお茶を楽しんでもらえる未来へ」
今でも地元の人たちは茶葉をカジハラさんの茶工場に持ち込んで「釡炒り茶」して飲んでいるのですか?
梶原最近では地元でも多くの人はスーパーに並ぶ大量生産の「深蒸し茶」を飲むようになりました。買って飲んだほうが楽だし、コストもそんなに変わらないから。
今ではイギリスのコンテストでも最上位を獲るなど日本の茶業を牽引するような活躍をされていますね。
梶原祖父から続く家業を学校を出てから引き継いだけど、社会環境が変わってお茶が売れなくなる中、「自分らしいお茶」を追求することが家業を繋ぐチャレンジとなりました。元々作っていた釡炒り茶を「自分らしいお茶」に変え、様々な品種で紅茶を作るようにもなりました。その延長線上にイギリスでのコンテスト受賞があったということですね。
息子さんも茶業に精を出していますが、これからどのようなことを期待していますか?
梶原飲み手の皆さんにはいろいろなお茶の個性を楽しむことで、もっともっと日本のお茶の良さに注目してほしいですね。自分はこれまでがむしゃらに「自分らしいお茶」づくりに邁進してだけでしたが、次世代を担う息子には「芯水を抜く」という基本だけはきっちり守り、さらに多くの人たちに「お茶のカジハラ」のお茶を飲んでもらえる茶園経営を“楽しんで”ほしいと思います。そして自分はその横で趣味のお茶作りをさせてもらえるようになるのがささやかな夢なんです。
インタビューの音声ではもっといろいろと柴本さんのことを聞いています。ぜひ聞いてみてください!


