Column

暦のお話|立秋

Editor

立秋(8月7日~8月22日)

夏の力強さと熱量に魅せられているうちに、次の季節がやってくる。秋の始まりの節気、立秋。

まだまだ暑くてピンとこないが、これから少しずつ風が変わり、雲が変化して、日差しの角度が変わり、影が長くなり、咲く花が移り、ヒグラシが鳴きはじめる。日暮れとともにヒグラシが鳴きだすと、あぁ今日も一日が終わってしまったと思う。残念なような、安心するような夕暮れが訪れ、今までより少しだけ長い夜が始まる。

秋の訪れは収穫の季節の始まりである。稲が育ち、田んぼを渡る風がさらさらと音を立てていく。これから徐々に稲穂が重くなるにつれて、そこに吹く風の音も変わっていく。秋の実り、自然の恵みを素直に取り入れて健やかな日々につなげていきたい。この時期の、暑さで疲れた身体に無理なく優しく寄り添う食が、これから秋から冬への体調を支える。

立秋以降の暑さを残暑という。残った暑さに上手く付き合いながら、香りの食材を取り入れて身体を整えていく。元々香りには清める効果があると伝えられている。茗荷、大葉、山椒、生姜、その他様々な西洋のハーブなども含め、香りの植物はその香りで心身を清めてくれるだけでなく、体調を整える力も備わっている。料理はもちろん、お茶とあわせてブレンド茶にするのも楽しみのひとつ。フレッシュやドライなど手に入れやすいもので手軽にいろいろと試してみたくなる。合わせ方が難しそうな場合は、お茶とハーブを別々に淹れて、液体でブレンドすると調節しやすい。香りにより手持ちのお茶の印象が変わり、新たな気づきや美味しさに出会える。

お茶に合わせやすい和ハーブに「黒文字/くろもじ」がある。「クロモジ」は野菜ではなく樹木で、枝や葉を使う。そのままでは香りはしないが、手折ったり焙ったりすると柑橘やスパイスのような香りがする。爽やかな森の香りが深く広く意識を広げてくれる。「月桃/げっとう」もお気に入りのひとつ。生姜と同じ種類の植物で、乾燥させた葉を煮だすと、部屋いっぱいにやわらかで爽やかな香りが満ちる。香りに包まれ全てが浄化されるような感覚で心が満ちていく。香りはいつの季節でも贅沢なご馳走となり、豊かな時間を過ごす友となる。

【菓子】葛焼き/くずやき

葛粉と餡を合わせて表面を焼いた菓子。葛饅頭ときんつばをお餅菓子に寄せたような柔らかな食感。もともとは薬として食されてきた葛、秋の七草にも数えられており、大きく茂った葉の影にひっそりと紫の美しい花を咲かせる。葛の根から精製される葛粉には滋養があり、生薬として古くから大切に食されてきた。通常のじゃがいものデンプン質は身体を冷やすが、マメ科の葛のデンプン質は血行を促し、身体を冷えからまもってくれる。ふわふわな触感と控えめな甘さ。冷たいものばかりで冷え切った食生活に、自然の恵みから優しさと労わりと美味しさをいただこう。

関連記事